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(memo) (res) (naruto) (silversoul) (other)
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発掘したものを再UP
この二人の空気感が好きです。
若干サスケを交えた三角関係なのかも。

今となってしまえばただ彼に関しての思い出の全ては美しく描かれていて、誰の手にも触れることのできないように真新しい額縁に飾っておいてある。もっと辛いことだっていっぱいあったはずなのに、それらを何の躊躇いもなく受け入れることが出来ほど私はまだ強くない。


何処なりと、此の世の戸外へ


もう何度目の会話を交わすのだろう。数えることが出来ないくらいの回数の中で、少しでも気を許して彼と話したことはなかった。根拠はないけれど全身の細胞が警戒をしていたからだ。強気でいる反面、彼には恐怖すら感じる。心のどこかであの人と、面影を重ね合わせていたから。悟られてはいけないと思った。だから常に笑顔は絶やさないように心がけてきたつもりだ。

「例えばね、サクラさんのその顔」

白い画用紙に墨汁を吸った筆だけで次々に何かを描きだしていく。それがどういった形で出来上がるのかこちら側からはわからない。今までの沈黙を打ち破り突然に繰り出された言葉の意味がわからなくてサクラは首をかしげた。

「何?」
「だからその顔」

返ってくる言葉は変わらない。サイに話し掛けたからか少しばかり動いてしまった淡紅色の頭を彼は鋭い目で制する。

「動かないで」

あまりに真剣な瞳でそういうものだから、サクラは少しばかり身を小さくして今度は出来るだけ体を動かさないように尋ねた。

「顔が何?」
「君が僕に見せる笑顔の八割は嘘の笑顔だ」

相変わらず白い画用紙から目を離すことなく彼はさらりと言った。手はせかせかと動いていて黒い墨が確実に彼女を描いていることは確かだった。膝の上の拳をきゅっと握り締めて、サクラが唇をへの字に曲げる。

「今は作り笑いよ、当たり前じゃない。私じっとしてること苦手って言ったでしょう」

ひんやりと冷気を伝えるこの石に座り続けて何時間がたったことだろう。珍しく彼から話かけてきたと思ったら、これだった。人物画を描きたいからという理由でだ。

「今じゃなくても、だよ。例えばねナルトと話しているときの笑顔は全て本物なんだよ」

言葉にいまいち覇気が感じられないのは、只管絵を書くことに集中しているからであろう。にこりとも笑わない、無愛想というか無表情なこの顔がサクラは一番サイらしいと思った。

「ナルトだけじゃない、ヤマト隊長にだってそうだ」

サイが顔を上げた。無論それは彼女と目をあわそうとしたからではない。サクラを彩る輪郭やパーツをひとつひとつ正確に描こうとしているためだ。サクラの顎のラインは、思わず見惚れてしまうほど美しい。瞳に映る寂しげな色は吸い込まれてしまうような錯覚に陥るほど深い。動かし続けていた腕が、ぴたりと止まった。黒一色の硯の上に筆を置くとことりと二人の間に虚しい音が漂う。

「――サスケ君の前だと君はもっと綺麗に笑うんだろうな」

今度は彼女と目を合わせるように、否彼女の動き全てを捕らえてしまうようにサイは微笑んだ。その表情に少なくとも哀しみを含ませてしまったのは無意識だった。サイの言葉に特に反応は見せず、サクラはすっと右手を彼に差し出す。ずっと動くことをしなかった腕が少し痙攣のような痺れを見せた。

「見せて、描いた絵」

言われたとおり、まだ墨の乾かない画用紙をサイは黙って彼女に差し出した。細い指がそれを受け取る。翡翠の瞳にこの絵がどう映ったのかは知らない。暫く何も言わずサイが描いた絵を見ていたサクラはやがて俄かに笑った。

「上手く笑えないのよ。あなたとサスケ君の前じゃ」

理由なんて、答えなくて答えたようなもの。この人も、彼も時折他の誰よりも辛そうな顔をする。こんなにも寂しい人を笑顔で誤魔化していいのかと、心に潜む自分は躊躇する。結果、綺麗な笑顔でも、穢れた笑顔でもない一番無様なことになってしまうのだ。そしてそれが余計に彼らを苦しめることだって、知っていた。

「――サクラは笑わないほうが僕は好きだ」

哀しげな顔ゆえに哀愁を誘う。そしてそれゆえに彼女の美しさは生まれる。笑ってしまえばそれらの妖艶さが全て隠されてしまうような気がした。ふとした瞬間に見せる今にも張り裂けそうなサクラの顔は不謹慎ながらにも魅惑的だった。

「そんなこと言われたのは初めてよ」

真っ直ぐにこちらを見据えたサイにサクラは肩をすくめる。サイは嘘をつかない。つくのが苦手か、つく必要がないと思っているのか、多分後者だろう。
笑っていれば、嫌なことも忘れられるような感じがした。笑顔を作ることに必死になって誰も辛い過去など思い出す暇なんかない。
――どうやらまだ、呪縛からは逃れられない。
サクラはもう一度今しがたサイが描いたばかりの絵を眺めた。墨は乾いてしまって、薄い太陽の光に少しばかり煌かせていた。碧い目が見つめる先は、紛れもなく彼女自身。よく似ている。しかし、絵の少女はまるで笑顔を知らない人形のような顔をしていた。微笑もせずかといって哀しい様子もない。本当にただ感情の持たない、いやもしくは誰かに心を支配されてしまった彼女の姿がそこにはあった。


END.
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