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三年前に書いたものを再録。
ビババレンタイン


昼休みにもなると、学年中の女子達がサクラのクラスに詰め寄った。
お目当てはもう知っている。
きゃっきゃと飛び交う女子の高い声に眉を寄せたいのがため息をついた。

「サスケ君も毎年大変ねぇ」

窓際の席。
いのはサクラの机に頬杖を付いてチョコレートを口に放り込んだ。
それをサクラは見逃さない。

「それ私がもらったチョコ」
「いいじゃない別にけちけちしなくたって。まだいっぱいあるんだから」
「よくないわよ。それ一粒五百円もするのよ」

チョコレートのブランド店の限定品だ。
自分も買う際にちらっと値段を見たからわかる。
高くてとても手が出なかったものだ。

「私も何か部活に入ればよかったわ。後輩ってありがたい存在ね。今どき義理堅いわ」
「それ目当てで入ったように言わないでよ」

むっと眉を寄せ、サクラがいのを睨んだ。

「それにしてもあんた、サスケ君いいの」

サクラがもらったチョコを摘みながら、いのは教室の入り口にたまった女子を一瞥した。
その言葉を受けて、にっこりをサクラは笑う。

「その心配はなし。この時間サスケ君がどこにいるのか知ってるのは私だけよ」

そういえば、昼休みに入ると忽然とサスケの姿はこの教室から消えた。
どうやら女子が詰め掛けるまえに姿を晦ましたようだ。
その目論見どおり、教室には居ないとみた女子達は思い思いの方向へ散らばっていく。
諦めて帰っていくもの。
見つかるまで探すもの。
半々くらいだろうか。
毎年この光景をみてつくづく思う。
何て単純で面倒臭い。
それでも嬉しそうに頬を赤らめて笑うサクラを見ていのがため息をついた。

「もてる男の彼女って苦労するのね」
「おかげさまで」

冗談めかしてサクラが返した。
当の本人はそれを苦労を思ったことが無さそうだが。

「さてと」

サクラはさっきまで教室の外にの女子の様子を伺いつつ立ち上がった。

「王子様と逢引かしら」

いのがからかった。
鞄の中から何か大きめの袋をがさがさと取り出しながら照れたようにサクラは笑う。
サスケを想いながら笑うサクラの笑顔は純粋に可愛いなと同性の目から見てもそう思った。
淡紅色の髪が、昼間の高い太陽に晒されて艶やかに揺れる。
ひらひらといのに手を振ってサクラが教室を後にした。
向かう先はひとつだけ。
此処からじゃ少し遠い別校舎の屋上。
はやる気持ちを押さえながら、自然と足が駆け足になる。
廊下から眺める景色は何一つ違わないのに、胸に暖かいものがこみ上げた。
サスケの姿を思い描きながら階段を駆け上った。
ただそれだけの仕種のはずなのに、高まる鼓動は収まらない。
熱を持たないアルミの扉は、ひんやりとして冷たかった。
そのドアノブをゆっくりと捻る。
解き放たれた扉から細く差し込んだ眩しい日の光が目を刺激した。
思わず眉をよせたけれど、嫌なものじゃない。
まだ冬真っ盛りのこの時期。
屋上には冷たい風が吹いて酷く寒かった。
ぱっと見たところ彼の姿は見当たらない。
きょろきょろとサクラが辺りを見渡していると、

「こっちだ」

頭上からサスケの声が降ってきた。
一体どうやってそんな所へ上ったのか、屋上でもさらに突起したコンクリートの上から彼は顔を出していた。

「サスケくん」

眠そうに目を擦っているところをみるとどうやら仮眠でも取っていたのだろうか。
サクラは持ち前の運動神経で非常用はしごをたんたんと彼の元へ上っていく。
陽の光がよくあたるからか、思いのほか其処は暖かかった。

「ここ気持ちいいわね」

風に踊る髪を撫で付けてサクラが景色を一望する。
綺麗な翡翠の瞳にうつるのは晴れ渡った空の色。

「ねぇ知ってる」

サクラはサスケに向き直った。

「今日バレンタインデーよ」
「知ってるよ。だからいつもより早く此処に来たんだ」
「私にも言わないで」

口を尖らせて拗ねて見せる。
サスケがバツの悪そうな顔をした。

「お前なら言わなくても来るだろう」

確かにそうなんだけれど。
そうサスケに思ってもらえていたことがただ嬉しかった。
サクラは手にしていた袋をがさがさと漁った。
そして中から黒い塊を取り出しす。

「はい、これ」

その黒い毛糸の塊を解いて見せてサクラが笑う。
どうやらマフラーのようだ。

「形は歪だけど、でも愛はしっかり込めておいたわ」

そういってサクラがそっと彼の首に巻きつけた。
ふわっと香ったのは彼女の匂い。
どうやら本当に形はお世辞にも綺麗とは言えないらしい。
真っ直ぐのはずのマフラーは、見事なまでに蛇行していた。
それでも少しはにかんだサクラの笑顔が、たまらなく可愛くて。
大きなサスケの手がすっと伸び、サクラの頭を包み込む。
ゆっくりとそのまま己の方に寄せて、口付けた。
陽は暖かいといえど、吹きすさぶ風はやはり冷たい。
けれど唇だけに灯火が燈るように暖かかった。
そっと目を閉じてサクラはその熱に酔わされた。
鼓動はサスケの温度に激しく脈を打っている。
やがて静かに彼の唇が離れた。
温もりだけは消えない。
首まで真っ赤にしたサクラを覗き込んでサスケは小さく笑った。

「いい加減慣れろ」

揶揄気味にそう呟いた。
そしてもう一度手を伸ばす。
身を任すように目を閉ざしたサクラの小さな口を塞いでやった。
交わされるのは優しい温もりだけ。

今度はさっきよりもずっと深く。

END.

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